デリバティブリサーチ株式会社
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仕組債残酷物語

「週刊エコノミスト」特集:仕組債残酷物語​ 寄稿 「仕組債」の商品性​分析

『週刊エコノミスト』​に「仕組債」の商品性​分析を寄稿しました。当サイトには文字数の制約のため、エコノミスト掲載稿では削除された箇所も掲載しています。

高利回りの正体

利益は限定される代わりに損失が多額に上る商品性

佐藤 哲寛(デリバティブリサーチ代表取締役)

高利回りが魅力的に映る仕組み債。しかし、表面的な数字に惑わされてはいけない。

 金融派生商品(デリバティブ)を組み込むことで、社債や国債など一般的な債券(公社債)にはみられない特別な「仕組み」を持つ仕組み債。その中でよく販売されているのが株価連動債だ。
 債券は通常、満期まで保有すれば額面全額(投資元本)が戻る。一方、株価連動債は上場企業の株価や、日経平均株価といった株価指数の変動に応じて、利率や元本の償還額が変化する。株価連動債の一種である「日経平均連動債」を例にとってみよう。

実態はオプション取引

 イメージは以下のようなものだ。契約時点で1万5000円だった日経平均が1万6000円から1万2000円の間に収まっていれば3カ月ごとに年利10%の利息を受け取れる。しかし1万2000円以下になれば利率は年利0・1%に低下する。
 3年など日経平均連動債が償還となる期間(満期)までに、一度でも日経平均が9000円以下になれば、元本は株価の値下がり分だけ目減りして償還される。ただ、満期時の日経平均が1万5000円以上だったら、全額償還となる。また、3カ月ごとにくる利払い日に1万6000円を超えていたら、その時点で元本は全額早期償還される(図1省略)。

 うまくいけば高利回りを得られる半面、株価次第で元本割れする可能性があるわけだ。ただ、これはあくまでも概要に過ぎない。仕組み債はそう単純な商品ではないのだ。
 ほとんどの株価連動債は、公社債に「株式プットオプションの売り取引」を組み込んだ構造になっている。オプション取引は、「あらかじめ取り決めた特定の期日に、特定の資産を『売買する権利』を売買する取引」である。株式プットオプションの売り取引とは、ややこしい表現だが「『株式を売る権利』を売る取引」で、かみ砕くと「自分(購入者)に株を売る権利」を他人(取引相手)に売っている。そのため購入者は不利な条件でも株を買う義務を負う。

 この権利が行使されるのは、先ほどの例では、期間中に株価が9000円以下に一度でも下がって、最終的に1万5000円を下回ったとき。購入者とオプション取引を行っているのは債券の発行体で、株価が値下がりしていても購入者に1万5000円で買い取ってもらえる。要するに購入者からすると、株式の値上がり益は全く得られず、値下がりの損失だけを被る取引なのだ。
ただし、損するだけでは誰も取引をしない。損失のリスクに見合う対価(「オプションプレミアム」と呼ばれる)を受け取ることで、取引は成立する。株価下落による損失が当初受け取るオプションプレミアムよりも少なければ、オプションの売り手(購入者)はこの取引で利益を得られる。仕組み債の特徴の一つが高利回りだが、この源泉がオプションプレミアムだ。

このように株式プットオプションの売り取引は、得られる利益は限定的だが蒙る損失は限定的でないという、損失リスクが取引当事者の一方に偏った、リスクの高い取引である。
 そして、そのオプションの売り取引の損益構造をベースにしながら、さらに利率変更条項、早期償還条項といった特約がついて、より複雑な損益構造になっているのである(なお、これらの特約も、それぞれ別のタイプのオプション取引である)。

意外に低い高利率の確率

 では、実際に高利回りとなる可能性は、どの程度あるのだろうか。実は金融の世界では、こういった確率や取引の価値を合理的な方法で算定することができ、金融界のプロ同士はそれを前提に取引を行っている。あまりにも専門的になるため、詳しい説明は省くが、ここでは市場には裁定取引の機会がほぼ存在しないという前提のもと、モンテカルロシミュレーションと呼ばれる手法で、ある株価連動債を分析し評価してみた。

 評価対象としたのは、大手証券会社の海外グループ会社が発行する債券で、有名上場企業A社の株価に利率や償還金額が連動する株価連動債である。利率は年利15%。ただ、3カ月ごとの価格判定日の時点で、A社株が2割値下がりしていれば、年利は0.5%に下がる。
 元本は、3年後の満期時の株価が契約時よりも上昇していたら全額償還されるが、下落している場合はその分だけ目減りする。株価が半分になれば、償還される元本も半分になる。また、A社株が1割以上、上昇すると次の利払い日に元本が全額償還されて、早期契約終了となる。

 分析の結果、この株価連動債は、最初の3か月間は年利15%が確定しているが、半年後の2回目の利払い日に高利率を受け取れる確率は3割にも満たない。1年後にはその確率は1割になり、3年後の最終利払い日にはわずか2%しかない。
 これに対して2回目の利払い日以降、0.5%の低利率となる確率は常に3~4割ある。最終的に低利率になる確率は、高利率になる確率の15倍以上にも達する(図2)。株価が契約時価格の80~110%の範囲に収まれば高利率が得られるが、株価は思った以上に変動するものだ。

意外に低い高利率の確率

 1、2回の高利率を受け取った後に、首尾よく株価が1割値上がりして早期償還する確率も高いといえる。ではうまく「勝ち逃げ」できるかといえば、証券会社のセールス担当者は引き続き同様の仕組み債を勧め、投資家も仮初めの成功体験を得たがゆえに安全な投資と錯覚し、再投資したケースが多かった。大きな相場変動のタイミングまで、真のリスクに気づかないのだ。
 なお、早期償還は、この株価連動債で利益を得ることができるほぼ唯一のシナリオであり、満期償還する場合は、不思議な話だが、ほぼ確実に損失を被ることになる。最終的に低利率になる確率が高いということは、最終的に元本が2割以上目減りする確率が高いことを意味しているからである(目減りした元本よりも多くの利息を得られるかどうか、という勝負である)。

利益と損失の差額は大

 次に、1000万円の投資元本が受取利息を含めて無事に全額償還される確率(早期償還を含む)を計算した。その確率はおおむね3分の2。元本が目減りする確率は3分の1である。ただし、損益の発生確率だけでは、本質がつかめない。利益を得る場合に見込まれる利益額の平均値と、損失を被る場合に見込まれる損失額の平均値に大きなギャップが存在しているからだ。
 投資元本が全額償還されて利益を得られる場合の平均値は約70万円。しかし逆に損失を被る場合の平均値は、受取利息を含めてもマイナス600万円近くとなる。利益額の平均値の8倍以上だ(絶対値で比較)。

 この株価連動債の総償還額の発生分布は、誰もが思いもよらない形だろう(図3)。少しだけ利益が得られる可能性が最も高いのは理解できるが、次に可能性が高いシナリオ(二つ目のピーク)は投資元本の7割もの損失を被るケースなのだ。極めてリスクが高い商品であるとわかる(このような“ふたこぶラクダ”の損益分布を示す仕組債は少なくない)。
 損益のそれぞれの平均値に発生確率を掛け合わせると、この仕組み債の本当の価値がみえてくる。利益を得る確率3分の2にその平均値70万円を掛け合わせた金額は、利益を得られる場合の利益の期待値を表す。損失を被る確率3分の1にその平均値マイナス600万円を掛け合わせた金額は、損失を被る場合の損失の期待値を表す。

 それぞれの金額を合算した損益の期待値はマイナス153万円。投資元本の1000万円から損益の期待値マイナス153万円を差し引いた847万円が、契約時点の本当の価値、いわゆる「時価」である。
 つまり契約した瞬間に約15%も投資元本が目減りしていたことになる。果たして購入者は、株式プットオプションの売り取引のリスクに見合う正当な対価を得ていたのか、という疑問がここに生じる。難しい話だが、以上のことを理解していなければ、仕組み債を正しく理解することはできないし、そうでなければ購入をためらうべきであろう。

利益と損失の差額は大



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