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プロは買わない他社株転換債

「週刊エコノミスト」 2013年11月5日号 

 特集「相続とお金のトラブル 」寄稿
「仕組み債 プロは買わない他社株転換債の破壊力」

『週刊エコノミスト』​に「仕組債」の商品性​分析を寄稿しました。当サイトには文字数の制約のため、エコノミスト掲載稿では削除された箇所も掲載しています。

プロは買わない他社株転換債
元本割れの確率は予想以上


佐藤 哲寛(デリバティブリサーチ代表取締役)

一部投資家の間で根強いニーズがある「他社株転換債」。一見、高利回りだが、割に合う投資と言えるのか。

 金融派生商品(デリバティブ)を組み込むことで、社債や国債など一般的な債券(公社債)には見られない特別な「仕組み」を持つ仕組み債。その中でよく販売されているのが株価連動債だ。15年ほど前から個人向けに販売され、損失を巡って訴訟になるケースも見られた。2008年のリーマン・ショック後は影を潜めたが、昨今の株価回復を受けてか再び売られ始めている。
 株価連動債の一つが「他社株転換債」で、EB債(エクスチェンジャブル・ボンド)とも呼ばれる商品だ。「転換社債」に名称が似ていて紛らわしいが、全く逆のリスク特性を持つ。
 転換社債は、社債を発行した企業(発行体)の株式に転換することができる社債だ。転換する権利は投資家側にある。社債購入後、その企業の株価が上昇したときに、あらかじめ取り決めた安い株価で社債を株式に転換することで、投資家は利益を得る。転換社債そのものの利率は相対的に低めだ。
 一方のEB債は、債券の発行体とは関係ない企業の株式に転換されることがある債券。株式に転換する権利は発行体側にある。債券購入後に対象とする企業の株価が下落したとき、あらかじめ取り決めた高い株価で債券が株式に転換されることで、投資家は損失を被る。その代わり債券そのものの利率は相対的に高めだとされている。

理解困難な構造

 EB債には「株式プットオプションの売り取引」が組み込まれている。少しややこしい表現だが「『株式を売る権利』を売る取引」で、「投資家に株を売る権利」を投資家が発行体に売っている。そのため投資家は不利な条件(高い株価)でも株を買わなければならず、株価下落時に思わぬ損失を被るのだ。
 EB債の中でも特にリスク構造が理解困難なのが、投資元本(購入額)や利回りが連動(参照)する対象とする株式が複数銘柄ある商品だ。
 ある金融機関のグループ会社が発行する債券で、上場企業3社の株価に利率や投資元本が連動するEB債を例に見てみよう。対象株式の3社は製造業など各業界を代表する優良企業だ。満期を迎えるのは5年後。EB債の利率は年15%となっているが、3カ月ごとに来る価格判定日の時点で、3社のうちどれか1社でも株価が当初価格より5割以下に下落していれば年利が3%に下がる。
 満期時に投資元本が全額償還されるのは、5年間で3社の株価が一度も5割以下に下落しなかったときだ。5年間で1社でも5割以下に下落した場合は「ノックイン」と呼ばれる状態となるが、満期時にすべての株価が再び当初価格を上回れば全額が戻る。また、購入から3年目以降は早期償還条項が発動され、3社すべての株が1割以上上昇したら、次の利払い日に全額が償還される。
 一方、5年間で1社でも株価が5割以下に下落してノックインとなり株価が戻らなかったときは、最も下落した株式に全額が転換されて償還される。株価下落分だけ損失を被ることになるのだ。最も下落した株の価格が6割減なら投資元本は4割しか戻らない計算となる。
「3社のうち1社でも」という条件がポイントだ。3社の平均をとってリスクを分散させるのではなく、最も悪いシナリオを採用するのである。このリスクがどの程度のものか、直感的に理解するのはほとんど不可能だろう。しかし、こういった複雑な投資商品でも、金融のプロであればリスクの度合いや取引の価値を合理的な方法で算定することができる。このEB債を、金融界のプロが合理的な評価手法の一つとして活用しているモンテカルロシミュレーションを用いて分析評価してみた。

高いノックイン確率

複数銘柄参照で高まるノックイン確率図1 複数銘柄参照で高まるノックイン確率 まず、年利15%の高利率を受け取る確率は、当初2年間だと6割を超える。早期償還条項が発動する3年目以降は、その確率が大きく下がり、平均すると2割程度になる。これに対して3%の低利率を受け取る確率は、当初の0%近くからだんだん大きくなり最終的には6割程度にまで上昇する。年3%でも十分満足できる利回りだと感じる投資家は少なくないかもしれない。だが、問題は元本償還の確率と期待値だ。
 1000万円の投資元本が受け取り利息を含めて無事に全額償還される確率(早期償還を含む)は約4割である。約6割の確率で元本が目減りする。また、投資元本が全額償還されて利益を得られる場合の平均値は約300万円。逆に損失を被る場合の平均値は、受け取り利息を含めてもマイナス約400万円となる。
 このEB債は極めて高い利率を得られる確率が相当程度あるにもかかわらず、最終的には損する確率の方が高い。株価の5割下落、すなわちノックインの可能性が実はとても高く、いったんノックインが発生してしまうと、大きく元本割れする可能性が高いためだ。
元本毀損確率も高い図2 元本毀損確率も高い ノックインの確率を詳しく検証してみた。3社の株式を個々に見たとき、5年間のうちにノックインする確率はそれぞれ50%前後である。ところが3社の株を同時に見て最も値下がりした株式を選択すると、ノックイン確率は70%超にまで上昇する(図1)。分散投資は相対的にリスクが低くなるはずだが、逆に増大しているのである。
 ノックイン確率は、元本が全額償還される確率に直結している。つまり3社個別の株価なら元本が全額償還される確率はそれぞれ50%強だが、最悪シナリオ選択型になるとその確率は30%弱に低下し、元本が半分以下になる確率は実に60%ほどになる(図2)。全額償還される確率が50%なら、年利15%の高利率を1~3年ほど、残りの期間が年利3%だとしても、元本割れを避けられる。しかし、元本が半減する確率が60%もあるから、4~5年は年利15%を受け取らないと元本割れが避けられない。要は15%の利率をどれだけ長い間受け取れるかの勝負なのだが、そもそも勝負になっていないと言える。

ヤマ勘の材料もない

 この種のEB債は、このような複雑な計算をすることで、ようやく合理的な投資判断が可能となる。投資家は本来、ノックインによる元本毀損リスクと「株式プットオプションの売り」という対価(年15%などの利回り)が釣り合ったものであるかを判断しなければならない。加えて、業種も異なる複数の株価の最悪シナリオを見極める必要がある。
 そうでなければ、「同じ日本の優良企業の株なので下落リスクはほとんど変わらないだろう」「リーマン・ショックのような暴落は当面起きないはずだ」とヤマ勘で相場を張るわけだが、勘を働かす材料すら持ち合わせていないはずである。
 複数銘柄の最悪シナリオの結果を推し量る知識を通常の株式投資から学び得ることはないからだ。恐らく金融機関の販売担当者もこのような商品性の実体を知らないのではないか。知らなければ投資家に説明のしようもない。モンテカルロシミュレーションを解説した書籍は存在するが、数式が羅列し、一般投資家が読み解くには困難だろう。損失発生後、法廷に訴えても商品の難解さが壁となる。契約時に署名・捺印した多くの書面が「リスクを承知して購入した証拠」と見なされるとすれば、疑問を抱かざるを得ない。
 この商品は、合理的な判断が下せる金融のプロであれば絶対に買わない。合理的な判断が困難な実質「丁半ばくち」のような投資を、金融の専門知識が不十分な一般の投資家に勧めている金融機関の姿勢に問題がないと言い切れるのだろうか。



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